家だけ貯金なしの遺産相続は高確率で揉める!トラブルの原因と揉めないための対策

不動産の相続に限らず、相続トラブルを回避するために一番大切なのは「親が生きているうちに遺言書を必ず書いてもらうこと」です。

遺言書には遺産の分け方についての法的効力があるため、遺族間で細かいトラブルは起きたとしても、基本的には遺言書の通りに動かざるを得なくなります。

相続で揉める原因のナンバーワンは「財産は土地付き一戸建てだけで、預貯金がほとんどない」というケース。

家や不動産はお金と違い簡単に分けられないからこそ難しく、住宅情報サイトのHOME’Sが2015年に行ったアンケートでは、約7割の人が「家の相続が大変だった」と回答しています。

相続に対するアンケート結果


トラブルを避けるためには、親が生きている間の対策がカギ。

具体的な対策も大切ですが、大前提として一番重要なことは「家族間のコミュニケーションを増やす」ことと、「親の意思確認をしておく」ことです。

これらを怠ったがために結果大きなトラブルにつながっていく事例がほとんどと言っても過言ではありません。

逆に、相続人である子どもたちがお互いの状況を理解し、親が家をどうしたいのかを知ることで家族が協力して前に進むことができ、トラブルも回避しやすくなります。

この記事では、親の財産が家や土地、マンションなど不動産だけで、それをどう分けていいのか分からない人や、遺産分割で揉め事は避けたいという人に向けて、トラブル事例やその対策について詳しく紹介しています。

相続は大変ですが、家族が一致団結し絆を強めるイベントにもなります。

トラブルを避けるだけではなく、親の思いを受け継ぐ円満な相続にしたいという人はぜひ参考にしてみてください。


不動産をめぐるトラブル例

不動産や家はケーキのように切り分けることができず、だからこそトラブルの種になります。

家を1人が取得するのか、売ってお金で分けるのか、相続人全員の同意がなければ処理することができません。

全員の意見が一致すれば揉めることはないのですが、実際はそれぞれの事情や感情が絡み合い、主張がぶつかることが多いです。

思い出深い家を売りたくないという人もいれば、今すぐ現金が必要という人もいます。

話し合いで結論が出れば良いですが、「これはもう裁判で決めるしかない」となった場合はもう兄弟間の関係修復は不可能です。

家族の信頼関係が壊れ、法事も別々、その後の交流も断絶となると、これほど親不孝なことはありません。

揉めてしまう理由には以下のようなものがあります。


分け方を決めずに亡くなる
土地や家を残す親の気持ちとして、「できれば家は子どもに住んでもらいたい」という淡い期待があるものです。

好きに処分してくれとはなかなか言えませんし、子どもとしても親に面と向かって財産分与について聞くのは躊躇してしまいます。

曖昧にしたまま月日が過ぎ、きちんと話し合うことがないまま被相続人が亡くなってしまうと、多かれ少なかれ揉めます。

相続が始まると、遺言書がない場合は被相続人全員で財産の分け方について話し合いますが、これが円満に収まるということはほとんどありません。

親の生前に兄弟仲がよかったとしても、相続人の家庭状況は月日とともに変化しますし「もらう権利があるなら貰いたい」と思うのが人情。

本人同士が納得しても配偶者が口を出してくることもあり、一人が言い出すとほかの相続人も…と主張が対立してしまいます。


それぞれの「正しさ」を主張する
法律上は、子どもは養子でも長男でも公平に財産分配を受ける権利があります。

しかし相続人全員が同意すれば必ずしも平等に分ける必要はありません。

「家を売って平等に分けるべきだ」と考える人と、「親が残してくれたものをそう簡単には売れない」と思う人、また「自分が家を継ぐべきだ」と考える人がいた場合、全員の意見が一致することはまれです。

家を継ぐのは当然だと考えるのは、長男や、同居して介護した娘、二世帯住宅を建てた兄弟だったりします。

お互いに正しいと思うことが違うので、良い悪いを決めることはできません。

これが裁判に発展すると大体は法定相続どおりの分け方になるため、納得できない相続人とは関係が断絶されてしまいます。


親と二世帯・同居している
親と同居のために家を建て直したり、二世帯住宅にした人は、親が亡くなっても住み続ける予定のはずです。

ところが、土地と家が親名義になっている場合、たとえそこに住んでいたとしてもそれは相続財産になり、法定相続に従って分けなければいけません。

もしその家に住み続けたい場合は、相続分の現金を用意して各相続人に支払う義務があります。

何百、何千万円という大金はそう簡単に用意できるものではないですが、工面できなければ家を売るしかありません。


とりあえず共有名義にする
相続税の申告は10ヶ月以内と決まっているため、話し合いがまとまらないときは「とりあえず共有名義にする」ことが良いように思えますが、これは一番やってはいけないパターンです。


共有名義は問題の先送りでしかなくメリットがありません。

不動産を売るなり貸すなりの決定は、名義人全員の承認がなければできません。

そして名義人のだれかが死去すると、その権利は次世代に移り相続人が増えていくことになります。

時間が経つと相続人の状況も変化しますし、どんどん親類関係も遠くなり、話し合いが余計に複雑になります。


財産分割の種類と不動産に最適な分け方

不動産の分け方には以下の4種類があります。

  1. 現物分割:預金・不動産・有価証券など現物をそれぞれ分ける
  2. 換価分割:不動産を売却してお金を分ける
  3. 代償分割:不動産を取得する人がほかの相続人に代償金を払う
  4. 共有分割:不動産を相続人全員で共有する

財産が自宅など不動産のみという場合に最もおすすめなのは「2.換価分割」で、避けるべきは「4.共有分割」です。

共有分割にすると、財産をどうするかという決定は相続人全員の承認が必要になり、相続人が死亡するとその権利は子に移ります。

時間が経つほど相続人が増え、血縁関係も遠くなるのでますます話し合いに収拾がつかなくなるのでNGです。

そのほかの分割方法の特徴と注意点は以下の通りです。

1.現物分割:財産が複数ある場合には最適
財産を複数の人に想像するイメージ

長男が家を取ったら次男は預貯金、長女は株券といったように、財産が不動産以外にもある場合に一般的な分割方法です。

不動産が土地だけであれば分筆(土地の登記を2つ以上に分けること)して相続人それぞれが所有するというのも現物分割になります。

共有分割するくらいなら分筆するほうが後々揉めずにすみますが、測量費用に35万円〜かかります。

注意点

財産をそれぞれに分けるので分かりやすい反面、法定相続通りの分け方にするのは難しく不満が生まれることも。

不動産の評価額が相続人の間で一致せず、分け方が不公平だと感じる場合にもトラブルになります。


2.換価分割:なるべく早く行うのがベスト
一つの財産をお金に変えて相続するイメージ

不動産を売却してその代金を分割する方法で、預貯金がほとんどない不動産相続で一番使われる方法です。

家に親しか住んでおらず、今後誰も住む予定がない場合に適しています。

ポイントは、親がシニア向け住宅や有料老人ホームへ入居したときや、遺産分割時などなるべく早いタイミングで売却することです。

人が住まなくなった家はどんどん傷み価値が落ちますし、管理費もばかになりません。

注意点

相続人の中に売りたくない人がいると揉めます。

また、売却価格に全員が納得しなければ売ることができません。

例えば5,000万円で買い手が現れても、「この価格では安すぎる」と誰かが言えば売ることはできません。

その結果売り時を逃し最終的に3,500万円になってしまった場合、初めに賛成していた人にはおもしろくない結果になります。


3.代償分割:代償金が用意できるかがカギ
家を一人に相続した後、更に複数人にお金で相続するイメージ

家を相続する人が、ほかの相続人の相続分をお金で支払う方法です。

二世帯住宅や親と同居しているなど、既に住んでいて不動産を分割や売却できない場合に適していますが、数百万円を超える高額な代償金を用意できることが条件になります。

注意点

代償分割は親の協力なしには難しいため、生前の話し合いは必須です。

親が生命保険金に入って代償金を準備したり、親からほかの相続人に生前贈与しておくなどの対策が必要になります。

また不動産の評価方法は数種類あるため、家を相続する人はできるだけ低い評価にしたい、代償金を受ける人はできるだけ高い評価に…というように、全員が納得する評価額を出すのに苦労します。

代償金を払ったのに、後から別の評価額を持ってきて差額の支払いを請求されたというトラブルもあります。

円満相続するためには不動産を売却して換価分割するのがベスト

親が亡くなった後も住む予定がある場合は別ですが、財産が家しかないという場合に最も良い分け方は「できるだけ早く売って換価分割すること」です。

相続人全員が売却に賛同しない場合は「貸す」か「保有する」かを考えますが、貸す場合は立地がよほど良いかマンションでなければ借り手は見つかりにくく、古い家だと大規模なリフォームも必要になります。

家を保有する場合は、税金やメンテナンスなどで年間50万円ほど維持費がかかりますし、放置すると防犯面でも危険で近隣の迷惑になります。

何年か経って売ると資産価値は下がり、物件価値がなければ取り壊し費用がかかることもあるため、どうせ売るならできるだけ早いタイミングで高く売るほうが良いのです。

家を売ることに抵抗があるのは、「親が残してくれた財産を手放すのは忍びない」という思いがあるからです。

しかし、老朽化して取り壊すのをただ待つよりも、きれいな状態で次の人に住んでもらうほうがずっと財産の有効活用ではないでしょうか。

そのためには親に遺言書を残してもらい、相続人が迷わないように意思表示してもらうことがとても大切です。


親が元気なうちに争続対策を

HOME’Sのアンケートでは、相続で後悔していることという質問に70%以上の人が「親の生前にもっと準備をしておけば良かった」と回答しました。

相続で後悔している人に対しての理由アンケート結果

親の生前の準備とは、生前贈与や財産の把握、遺言書を書いてもらうなどです。

こういった対策をしておけばもっと相続がスムーズだったのにと後悔する人がたくさんいます。

財産が不動産しかない場合は、以下に挙げる対策をすることで争続を防ぐことができます。


遺言書の作成
遺言書は争続対策の基本です。

財産をどの相続人にどれだけ分けるかを明記し、不動産を売って分けるのか、相続人の1人が住んでほかの相続人に金銭を支払うのか、家を残してほしいのかなどを被相続人が指定します。

遺言書があれば全く揉めないとは言えませんが、兄弟だけで話し合う場合に比べ「親の意思」は全員が納得しやすく、争続対策として非常に有効です。

また、遺言書には「付言事項」という項目があり、どうしてこのように財産を分けたかという説明や、家族に対するメッセージを書くことができます。

これがとても大事な部分で必ず書くようにしましょう。

法的拘束力はないものの、親の思いに触れることで相続人の気持ちを和らげることができます。

遺言書のもう一つのメリットは「遺言執行者を指定できる」ことです。

遺言執行者は、本来相続人全員の署名と実印がなければできない相続手続きを単独で行うことができます。

事務手続きが簡略化でき、相続をスムーズにすすめられるためぜひ書きましょう。

相続に利害関係のない人物であれば、親族や知人など誰でも執行者に指定できますが、できれば専門家を指定するのがおすすめです。

不動産登記に関して強いのが司法書士、相続税に強い税理士、揉めた場合の訴訟対応がスムーズなのが弁護士です。


家族会議で交流を増やす
兄弟間の紛争はコミュニケーション不足から起こります。

全員が近くに住み交流があれば近況や互いの状況も把握できますが、離れていてほとんど顔を合わせることがない場合は相手の事情や気持ちはわからなくて当然です。

親は平等に子どもを扱っているつもりでも、子どももそのように受け取っているわけではありません。

相続の場では親の愛情をお金で取り返そうとしてしまうために、自分の主張を曲げることが難しいのです。

これを防ぐには、親が積極的に家族が集まる機会を設けるしかありません。

兄弟が疎遠であれば親が仲を取り持ち、遠くに住む子の帰省時には交通費を渡すようにします。

子ども側も帰省時には手土産を持参したり、年賀状をやり取りするなど家族へのちょっとした心遣いを続けることが大切です。


家をどうしたいか聞いておく

家に対する思い入れは強いため、親が亡くなった後のことを話すのはお互いに切り出しにくいですよね。

ですが、話し合わないデメリットが大きいのでなるべく明確にしておきたいもの。

切り出すタイミングは、親が終活を考えはじめたときがベストです。

介護や医療について希望があれば、その次に家をどうするかを話すことができます。

例えば、動けなくなったとき介護付有料老人ホームに入る希望があるか、最後のときは自宅と病院どちらで迎えたいを聞くのとセットで、家をどうしてほしいかということも聞くことができます。

家を早いタイミングで売却できれば資産価値も高く、親本人の医療や介護費用に充てられるため家族もとても助かります。

受け取る遺産は減るかもしれませんが、揉める種そのものをなくしてしまうことができます。


同居は生命保険で代償金を残す
親と同居している場合、親が亡くなった後も親名義の家に住み続けるには代償金を用意する必要があります。

例えば法定相続人が3人、不動産の評価額が3,000万円だった場合、そこに住み続ける人は代償金としてほかの兄弟に1,000万円ずつ、合計2,000万円を用意しなければいけません。

お金が用意できなければ、最悪の場合は不動産を売って用意するしかありません。

この対策として、被相続人である親に生命保険に入ってもらい、受取人を同居する子どもにする方法があります。
生命保険金は相続財産にならないため、兄弟で分ける必要がなく全額受取人の元に入ります。

2,000万円の支払いに保険金を充てることで、家を売らずに住み続けることができます。

もしくは、ほかの相続人には生前贈与で財産を渡しておき、不動産の取り分を請求しないように約束する方法があります。

二世帯住宅を建てる場合は、2軒が左右に並ぶ形にして親の居住部分だけ売却できるようにしておくのも対策の1つです。


お互いをいたわる気持ちが一番の争続対策

財産が不動産のみという場合は非常にトラブルになりやすいため、親が元気なうちに対策を打つことをお勧めします。

介護が始まるとどうしても特定の人に負担が行き、離れて住む子どもはノータッチということも出てくるはずです。

親の生前には何もしなかったのに、相続だけはきっちり主張されたら介護にあたった人は面白くありませんよね。

でも法律的には親の介護をしても財産が多くもらえるというわけではなく財産分与は等分になります。

このような不満の種を取り除くためにも、有効なのは遺言書の作成と家族会議です。

毎回全員は集まれなかったとしても、接触回数が増えることでお互いの理解が深まります。

互いの立場や苦労が分かれば労りの気持ちも生まれ、全員にとってベストな方法をみんなで考えることができます。

遺言書はいきなり書けませんし親にすすめるのもハードルが高いので、まずはエンディングノートからスタートしましょう。

エンディングノートは書店や文具店の日記コーナーなどで市販されており、親子で一緒に取り組むのがおすすめです。